OLYMPUS・XZ-10でハノイを撮る

写真

 僕は写真を撮ることを趣味にしている。写真を撮るにあたって、カメラを買う機会も、もちろん普通の人より多い。今回は、ネットオークションでOLYMPUS STYLUS XZ-10という10年ほど前に発売されたコンデジを中古で購入しました。買ってすぐ、何枚か写真を撮ってみたのですが、なかなか良い写真が撮れる。それもそのはずで、このXZ-10は隠れた名機や、不遇の名機と呼ばれているカメラなのです。

OLYMPUS STYLUS XZ-10

 では、何故、ただ『名機』と言われるだけではなく、『隠れた』であるとか『不遇の』という注釈が付くのかということなのですが、このカメラが発売された時期はスマホが普及し、簡単な日常的な写真撮影はコンデジからスマートフォンに役目が置き換わってしまった後だったからなのです。結果的にコンデジは売れなくなり、多くのカメラメーカーがコンデジから撤退したり、事業を縮小したりしていきました。その時代の流れに翻弄されるように、XZ-10というカメラは注目されることなく、家電量販店で投げ売りされ、そして消えていったのです。

 ここでOLYMPUS・XZ-10のスペックを簡単に紹介しておきます。

 撮像素子は、1/2.3型裏面照射型CMOSセンサー。焦点距離は35mm換算で、26mm~130mm。レンズF値は、広角端F1.8~望遠端F2.7。ISO感度は、100~6400。記録フォーマットはJPEG/RAW。CMOSシフト方式手ブレ補正機構搭載。本体サイズは、横102.4x縦61.1x奥行き34.3mm。

 このスペックの用語と数字を見てすんなり理解できる人なら分かると思うですが、F値が1.8始まりと言うところと、RAWで記録できるところを除けばいたって凡庸な性能です。特に1/2.3型センサーと言うところは、フルサイズ・ユーザーからすれば見向きもされないことだろうと思います。

 しかし、実際に写真を撮るとなかなかどうして良い写真が撮れる。これは、この機種が高級コンデジとして売り出されているXZ~2と言うカメラの廉価版として作られ、高級レンズのi.ZUIKO DIGITALを搭載しているからと言われることもあるが、それだけとも思えません。僕はXZ~2の前のモデルであるXZ~1も使っていますが、明らかにそれよりも良い写真が撮れます。

 そして僕は、時代の流れに押し流され日の目を見ることのできなかった不遇の名機に、思い切り自分の持つ実力を発揮してもらいたいと思ったのです。そう言うわけで、ベトナムはハノイのスナップ旅を、XZ-10さんにプレゼントすることにしました。

 撮影はできるだけXZ-10の実力を発揮してもらうためにiAUTOだけで撮影し、帰国してからLightroomで編集しました。

とりあえず、トレインストリート

 ベトナム鉄道のハノイ駅近辺に、トレインストリートという場所があります。線路上の左右にカフェが立ち並び、列車がお店のギリギリを通過するというものです。ギリギリというか、線路上にテーブルが置かれていて、列車が近付く度にテーブルや日除けテントを慌てて退けて、ギリギリの距離を通過する列車を眺めるというものです。普通、線路上に立ち入るのも難しいのに、お茶をするなんて、おそらく世界中ここでしかできない経験になります。映える写真が撮れますし、ジュースだけ頼んでおけば、後はどれだけカフェで長居しようが、写真を撮ろうが問題なしです。ハノイのお勧めのスポットです。

南トレインストリート
南トレインストリート
列車が通過する瞬間。ほんとにギリギリ。車体に触れることができる。

旧市街を歩く

 ハノイ駅からホアンキエム湖周辺とソンホン川まで、タンロン王城遺跡中心地区東側の三角形のような形の地域は、旧市街になっています。タンロン城の城下町として栄え、今も当時の面影、更にはフランス植民地時代の雰囲気を残します。トレインストリートを見た後は、旧市街を散策しました。と言うか、ハノイ滞在のほとんどを旧市街で過ごしました。今回、旅先をハノイにしたのは、この旧市街の街並みをXZ-10さんに撮らせてあげたかったからなのです。

旧市街のどこか

 ホアンキエム湖近くのドンキンギアトゥック広場を拠点にすると、ハノイ旧市街ばどこに行くにも徒歩30分以内で着くことができます。そんなハノイ旧市街は、至る所が見どころと言って良いかも知れません。碁盤の目のような区画に押し込められた洋風の建物の隙間には、花や植物が植えられています。長い歴史の中で街路樹は巨大に育ち、街を歩いているだけで、公園の中か森の中を歩いているような気分になれます。

カフェなど、屋内での撮影

コンカフェの店内

 つまり、ハノイ旧市街を観光するのは、歩き回ることが前提となるのです。そして、ハノイ旧市街の良いところは、歩き疲れて休憩したくなった時には、至る所にカフェがあり、いつでも休憩をとりお茶を楽しめるということです。そして、その多くがとてもお洒落でとってもセンス良い。

 写真はドンキンギアトゥック広場近くのコンカフェというカフェの店内。ベトナム戦争当時の雰囲気をテーマとしており、店員さんは北ベトナム軍の軍服をモチーフとした制服をきています。日本では店員が軍服を着るなんてなかなかできないですが、正直おしゃれで可愛かった。

Bancông

 Bancôngという花束のようなカフェ。内装も素敵でテラス席もあり、屋内はハノイには珍しくクーラーが効いています。

Loading T cafe

 こちらはLoading T cafeという若者に人気のカフェ。ベトナム風と洋風の折衷した建物には緑が繁り、近くで見ると古代遺跡のようにも感じます。大して看板も出てないので、近くを通っても知らなければカフェだと気付けないかも知れません。

Loading T cafe
Loading T cafe

 緑に覆われたノスタルジックな建物、長い時間の経過だけが作り出すことのできる味わい深い趣き。豊かな感性で組み上げられ洗練された内装。月並みですが、現実の世界ではあり得ないほどの素晴らしさという意味で、まるでジブリの世界に迷い込んだようでした。

Loading T cafe

 エッグコーヒーを頂きました。とっても美味しかったです。濃厚な味わいは、飲み物とスイーツの中間のような感覚。甘さと苦味のハーモニーが非常に力強い味わいの飲み物です。ちなみに、このエックコーヒーという飲み物はハノイにあるCAFE GIANGというお店が発祥で、ミルクの無かった時代に、卵黄とコンデンスミルクを泡立ててミルクの代わりに使ったことが始まりとされいます。CAFE GIANGは横浜の中華街にも支店があるとのことです。

 他にも何軒かのカフェに立ち寄りましたが、どこもなかなか良い感じでした。ハノイ・カフェ巡りだけで、旅行が一つできそうです。

 元々、お茶を飲む習慣もあったようなので、ベトナムではカフェ文化が普及しやすかったのだと思います。そう、ハノイでカフェを訪れて感じたのは、単なる飲食の場所であるというより文化的な時間と空間を味わう場所あるということです。あと、XZ-10さんの感じたことは、暗い室内は少し苦手ということでした。

 広角端F1.8~望遠端F2.7というレンズを持ってしても、少し暗い室内になるとどうしてもノイズが出てしまうんですよね。スマホで撮った方が、味わいとかは別にして、ノイズの少ない綺麗な写真が撮れます。後で写真をアップしまずが、夜景ならなおさらです。そもそも、ノイズに関しては昼間の明るい写真でも、結構出ているような気がする。まあ、そこはスマホがコンピューターで処理しているように、後からノイズリダクションを掛ければ何とかなります。現像ソフトのLightroomにはAIノイズ除去という優れた機能がありますし、他のソフトにもノイズリダクション機能は必ず付いています。足らないところは、無理せず他人の力を借りましょう。

夜景を撮って、足るを知れ

 夜になるとハノイ旧市街はその雰囲気を変えます。日常は闇に沈み、ランタンの灯りが通りを幻想的に浮かび上がらせます。通り自体が、まるまる飲み屋になってしまう所もあります。

 なかなか頑張っているとは思いますが、1/2.3型センサーという限界は感じます。この写真は、LightroomでAIノイズ除去を施し、ブログのサーバー容量節約のために圧縮しています。その用途であれば見れる画質を維持できるという程度です。ただ、それ以上の用途の写真の必要とされることが、果たしてあるのでしょうか。

 多くの人は、SNSに写真をアップして終わりです。A3以上に印刷して、他人に見せる必要のある人など現実的には居ないと言って良いと思います。限界を受け入れ、現実を知れば、XZ-10は夜景にも使えるカメラと言って良いと思います。夜のトレインストリートも撮ってきたのでアップします。

 これは夜の北トレインストリートの写真。厚化粧のおばちゃんのような写真になっていますが、優しい気持ちで見てほしい。

 昼間に撮ったのは、南トレインストリート。北と南で違いがあるかと言われると、あるように思う。北の方が線路脇のお店の数が多く、ストリート全体としては規模が大きいし、ストリートを照らし出すイルミネーションも北の方が綺麗だと思います。ただ、南の方が列車との距離が近く、ぎりぎり感はより味わえます。

 三枚目の写真は、飲んだビールの王冠を列車に轢かせてぺったんこに潰して遊んでいるところ。子供の頃に、線路上で絶対やってはいけないと言われた行為を全部できるところが、ハノイのトレインストリートなのです。

旧市街の黄色い建物

 このままでは終われないと言った感じで、再びハノイ旧市街です。

 ハノイ旧市街の建物は、黄色い壁の建物が多い。それが街の雰囲気を作り上げている。ハノイと言えば、何となく黄色ってイメージがある。黄色が高貴な色とされているからか、風水的に何か良いことがあるからだろうかと思って調べてみたら、どちらも違っていた。理由は、フランス植民地時代に使われていた壁を塗る塗料が、黄色かったかららしい。なーんだって感じですが、ハノイ旧市街の黄色い壁の建物はとっても印象的で可愛らしいのでした。

 そして、黄色に限らず、原色に近いような色合いを、XZ-10さんは非常に鮮やかに描写します。派手過ぎに感じる人も居るかも知れませんが、個人的には嫌味のない素直な鮮やかさだと感じました。

踊るベトナム人と花好きなベトナム人

 ベトナム人は公園や広場で、体操をしたり踊りを踊ったりしている。健康のためだと思いますが、ベトナム人は一人でコツコツ頑張るより、みんなでワイワイ楽しむ方が好きらしい。個人的にはハノイの隠れた名物だと思っています。

Vân Mít Bánh Mì

 Vân Mít Bánh Mìという評判のバインミー屋さん。バインミーはパンという意味のベトナム語だけど、普通はフランスパンに沢山の具を挟んだサンドイッチのことを指します。野菜が沢山取れて、小腹を満たすのに丁度良い。ここのは、なますのような野菜の味付けが甘めで、ギュッとプレスされたフランスパンがパリッと焼けていて香ばしく、とっても美味しかったです。

ロンビエン橋

 フランス植民地時代に作られたロンビエン橋という鉄橋。ベトナム戦争の時に破壊されるが、そのつど修復される。鉄骨の組み合わされた様から、横たわるエッフェル塔とも呼ばれるとさ。

Hoa Xa Cafe

 ロンビエン橋のハノイ側にはロンビエン駅がり、線路を挟んだ駅の向かいにHoa Xa Cafeというカフェがあった。とても控え目な内装。テーブルに飾られた花を見て、ベトナム人はやっぱり花が好きなんだなって実感する。

悪臭にやられながら社会主義を想う

Đ. Yên Phụ

 Đ. Yên Phụという通りにあった看板。

ロンビエン・マーケット

 顕密に言えば旧市街とは呼べないのかも知れませんが、ソンホン川沿いにあるロンビエン・マーケット。昼過ぎに訪れた時には、ほとんどの店舗がその日の営業を終了し閉店していました。多分、一般客向けのマーケットではなく卸売市場なのだと思います。

 市場の中は、商品である魚介類から出た汁の腐った匂いが充満していました。気を抜くと、今にも吐きそうになる程臭い。喉元に込み上げる吐き気に堪えながら歩いていると、その元凶を一人の女性が掃除していました。こんな掃き溜めを掃除するようなひどい仕事は幾ら積まれてもしたくないと思うが、おそらく彼女は雀の涙ほどの給金でこの仕事をこなしている。

 ここが資本主義国家なら、それも社会の歪みとして受け入れることができます。しかしながら、ここはベトナム社会主義共和国なのです。旅行していても忘れていることがほとんどですが、ベトナムは社会主義国家なのです。

 社会主義っていうのは、資本を国家が所有し、国の建てた計画によって生産が行われ、大きな貧富の差や社会的不平等は生まれない世界のことを言うはずです。それなのにベトナムには貧富の格差がある。ゴミを集める彼女は、とても貧しく見えました。国民年金制度もないし、医療はタダだが特定の病院に限られ、質の良い医療は高いお金を払わなければならない。バイクを買えない人がいるのにフェラーリが走っていたりする。物乞いもいるし、人々は日々のお金を稼ぐために目の色を変えていたりするのです。

 日本の方がよっぽど社会主義国家の理想に近いなって思いました。結局、社会主義、共産主義って絵に描いた餅か、理想主義者の自己満足だったんだなって思います。カンボジアでポルポトのしたことも見てきましたが、あれは劣等感が生み出した、まさしく惨めな狂気だった。

XZ-10さん、裏路地で出世する

 情報が飽和する街角

 ハノイの路地の壁には、こんな風に数字が書かれていることが良くあります。おそらくは電話番号で、何かの宣伝だと思うのだけれど詳しいことは良く分からない。

 裏路地に日が差し込んでいました。条件の悪くない環境で撮ったi.ZUIKO DIGITALレンズの写真は、非常に透明感があり軽快、かつ印象が深い。色彩も濃い色調ではあるのだがくどくはない。こういった写真を抜けの良いレンズの写真というのだと思います。やはり、i.ZUIKO DIGITALというレンズの質の良さが際立っているように思います。

 これがアップする最後の写真で、一番気に入っている写真。この写真が出来上がってきた時は、正直ハッとして心を掴まれたような気持ちになりました。看板の位置や、自転車を漕いでいるおじさんの、角を曲って傾いた重心の程良い躍動感。突き出した長靴の個性に、日差しの入り方。どれも理想に近い写真だなって思いました。自画自賛だけれど、会心の一枚です。そして、もしフルサイズ一眼であったなら、この写真が撮れていただろうかとも考えるのです。

 確かに、そのカメラの持つ個性や味わいを別にして、性能としての画質だけを見れば明らかにフルサイズの方が上です。ただ、写真の良し悪しは画質だけで決まるものではありません。写真は撮れなければ意味がないのです。この写真は角を曲がり自転車が路地に入ってくる一瞬のシャッターチャンスを掴んだからこそ撮れたのです。重いフルサイズを鞄から出していたのでは、手間取るばかりでシャッターを押すこと自体ができなかったと思います。

 スナップ写真にとっては、シャッターチャンスを掴めるかどうかが、良い写真を撮れるかどうかの一番の要因です。そう言った意味では常に片手で持ってスタンバイしていられるXZ-10の小ささは最大の長所であり、昼間のスナップ撮影に限って言えばフルサイズ機を超えているのではないかと思える所以です。そして、この写真を撮った後、XZ-10さんは、XZ-10様へと、敬称を変えたのであります。

旅を終えて想うこと

 最後に、これからハノイに旅行しようと考えている人のために、ハノイの悪いところも書いておこうと思います。

 これはハノイに限らずベトナム全般に言えることですが、ちょいちょい小さな詐欺に遭います。具体的には、値段の書かれていない街角の屋台やタクシーなどで、不当に高い料金を請求されたり、釣り銭を誤魔化されたりします。原因は、ベトナムの通貨であるドンの桁数が異常に多く、瞬間的に計算できず、自分が幾ら払うことになるのかが良く分からないということに起因します。お札も、柄などで把握しないと0が多過ぎて、100万ドンなのか、それとも10万ドンなのかパッと見ただけでは分からない。 

 現在のレートで、1ドンは概ね0.006円。つまり、100円のジュースを買うときには、16,666ドン払うことになります。これが、複数の商品を一度に買うとなると、慣れていない最初の数日などは訳が分からない。相手のベトナム人もそんな旅行客の状況を良く理解していて、うまく利用し詐欺を仕掛けてくるのです。

 まあ、ベトナム・ドンの取り扱いに慣れ、値段の曖昧なものは先に値段交渉しておけば問題は無くなるのですが、最初の数日はそうもいかない。不当に高い値段を請求されたあげく、お札の単位を見間違え、一桁多い金額を払ってしまう『盗人に追い銭』のような愚かなことにもなりかねません。

 まあ、日本人からすれば数100円の被害で大した問題でもないのですけど、たびたびやられるとダメージも蓄積してくる。ただ、そんなことをするベトナム人は、観光客相手に擦れてしまったベトナム人だけであり、多くのベトナム人は慈悲深く優しい人々だということを覚えておいて下さい。

 もちろん、XZ-10様にも短所があるように、ハノイにも短所はあります。当たり前ですが、完璧なものなどありません。しかしながら、XZ-10、そしてハノイ共に、その短所を補って余りある、素晴らしい魅力に満ち溢れているのでした。

 

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