『君たちはどう生きるか』を、どう読むか 4

精神世界

※この記事は物語の時系列に沿って進んでいきます。まだ読んでない方はこちらからお読み下さい。

 産屋に関する考察の中で、石も意志を持っていて、それが重要な意味を持つということ、そしてそれに関しては後でもう一度触れるとお伝えしました。ここでは、そのことについてもう少し掘り下げて考察したいと思います。

石の意志と大叔父に関する考察

 ここまで、僕たちはこの不思議な世界が大叔父によって支配されていると感じてきました。確かに、眞人を呼び寄せたのは大叔父の意志でした。ただ、夏子を呼び寄せ子供を産ませようとしたのは大叔父ではなく、石の意志です。そして、これは大叔父の後を誰に継がせるかという、大叔父にとって、そしてこの世界にとっての最も重要な決定になります。それなのに大叔父は、完全な決定権を持っていません。石の意志と大叔父の意志という、二つの意志が相容れないまま同時に存在しているようにも思えます。そうだとするなら、どちらがより支配な存在なのかという疑問が生じてきます。

 その答えを探すためには、違う物語を参照する必要があります。前途した比較神話学者のジョーゼフ・キャンベルは、ある民族に伝わる物語を語っています。

 ある所に、三人の兄弟が暮らしていました。ある時、三人揃って山の中に入っていきます。しばらく歩くと、兄弟の内の一人が銅の塊を見付け喜び勇んで帰っていきます。残された二人はそのまま更に奥へと歩いていきます。しばらくすると、二人の兄弟の内の一人が銀の塊を見付け、喜び勇んでその塊を持ち帰ります。最後に残された一人は引き返すことなく、もっと深い山の奥へ分入って行くのです。男は、もっと山の奥へ入っていけば、もっと素晴らしい宝、銅、銀と続いたのなら、自分は金の塊を見付けるに違いないと考えたのです。

 しばらく歩くと、最後に残された男は、裸の行者と出会います。その行者の頭の上では、円盤のような物が回転しています。男が更に近付くと、円盤は行者の頭の上から、男の頭の上にピョンと飛び移ってくるのです。行者は「長かった」と言ってその場を立ち去っていきます。つまり、回転する円盤は、自分を頭に乗せるものを必要とし、その役割からは次の役割を担う者が現れるまで解放されることはないということなのです。

 結果的に、男は金塊を見付けることもなく、次の役割を引き継ぐ者が現れるまで、延々と頭に円盤を乗せて立ち続けないといけないことになってしまったというお話です。

 現地では、欲張りすぎると碌なことにならないという戒めとして語られるお話ですが、ジョーゼフ・キャンベルは明確にその解釈を否定します。ジョーゼフ・キャンベルが言うには、途中で妥協せずとことん求め続けた者だけが、最高の価値、即ち真理に到達できるということを示しているらしいのです。つまり、行者の頭の上の円盤は真理を象徴しているのです。そして一度真理に触れてしまった者は、それに囚われてしまう。

 このお話は、大叔父の物語に似ていないではないでしょうか。大叔父は、空から降ってきた石の研究に夢中になった結果、石の塔の奥に消えてしまったと語られます。最高の宝を求めどこまでも山に分け入った男と、石の研究に夢中になりどこまで研究し続けた大叔父。妥協なく求め続けるという態度が同じです。

 そして、結果的に男は回転する円盤を頭に乗せ、大叔父の頭上には大きな石が青空を背景に浮かんでいます。ちなみに、空から降ってくる石と、大叔父の頭上の石は同じ物の表現の違いだと思います。例えば、円は円であることで自ずと中心を表し、中心は中心としてあることにより周囲の円を象徴するような感覚です。

 そして、一度それに触れてしまったら、それから勝手に逃れることはできない。男は、次の者が現れるまでその場で円盤を頭に乗せて留まらなければならないし、大叔父も次の後継者が見付かるまで積み木を積み続けなければなりません。

 さらに、この全く別々の二つの物語を更に強く重ね合わせることが許されるなら、男の頭の上の円盤が真理を象徴していたように、大叔父の頭上の石も真理を象徴していると考えられるかも知れません。この件に関しては、後でもう一度、大叔父の頭上に浮かぶ石は真理であるとして考察をしてみたいと思います。

 ともかく、僕たちは気付くべきことは、下の世界、石の塔の世界を統べる者は大叔父ではないということです。大叔父はあくまでも、石から力を与えられている代理人に過ぎないということです。このことについては、大叔父自ら眞人に対して語っています。つまり、大叔父は石によって囚われているだけで、本当に力を持っているのは石の方なのです。良く言っても、大叔父はせいぜい石によって選ばれているだけです。例えるなら、神の預言者としての、イエス・キリストのような存在です。

5に続く

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