この感覚をご理解いただけるかどうかは疑問なのですが、人は現実の世界と神話的世界の両方を同時に生きているように感じています。「なんだ? なんだ? また馬鹿なことを言っているのか?」と思われる方も多いかと思います。全くもってその通りかと思います。これは何となくそんな気がするっていうだけで、何の根拠もありません。あなたを納得させたいのではなく、共感してもらいたいのです。根拠もないまま、ふわふわ風に流される風船のように、今回の話は進んでいきます。
もう一つの世界に住む
人間は、二つの世界に、同時に生まれ落ちるような気がするのです。その世界は、現実の世界と、神話的な世界です。まあ、現実の世界とは僕たちの暮らす日常生活で、それ以上に説明を付け加える必要はないと思います。それでは、神話的世界とは何でしょうか。いわゆる神話とイメージしてもらっても良いのですが、厳密にはもう少し幅を持たせて扱いたいのです。通常、神話とは神様にまつわる物語で、特定の宗教団体における信仰上の基礎を担います。しかし、ここでは、一定の集団によって共有される精神世界という程度のものとして扱っていこうと思います。
それは単なる精神世界を指している訳ではなく、一定の集団によって共有されている精神の世界です。その事実が、単なる個人の空想以上の、ある種の現実として、より強い実感を与えることにも繋がります。つまり、空想という架空のものが、多くの人が同時に認識していることにより、現実と変わらない価値を持つようになるのです。あなたはブロックチェーン技術を使った仮想通貨をご存知でしょうか。ビットコインとかいうやつですね。通貨といいますが、そこに現物としてお金がある訳ではありません。そこにはお金があるという仮想が存在するだけです。
そんなの夢でお金を拾うのと同じことじゃないのかって思われるかも知れません。しかし、そこには夢の中のお金との決定的な違いがあります。それは、多くの人が仮想のお金を同時に認識していることで、仮想であったとしても存在が常に確認される訳です。まあ、仏教の唯識論などでは、この世のすべては認識に過ぎないとされるので、金庫の奥に仕舞われた現金より、仮想通貨の方がよほど実在に近い存在だと思われます。
そう考え直してみれば、僕の伝えたい神話的世界は、もう一つの現実と言い換えることもできるだろうと思います。もう少し説明を重ねるなら、僕たち人類がまだ原始人だった頃、満天の星空の下、焚き火を囲み、長老から聞かされた、自分に繋がる部族の神話です。そこには、部族の英雄や、巨大な力を持つ神、絶世の美女、忍び寄る悪魔、万華鏡を覗き込んだように広がっていく冒険譚が語られていたことでしょう。それらの物語は部族の者すべてによって認識されることにより、もう一つの世界として存在していました。そして、その物語を受け継ぐことで部族の一員として受け入れられます。それは、そのもう一つの世界に、自分の居場所を与えられるということと同意です。
そして、あなたは登場人物の一人として、その世界で成長していくのです。その世界は、神話やお伽話といった物語であり、端役であるように見えても、あなたが主人公の、あなたのための物語です。そのもう一つの世界に、もう一人のあなたが存在するからこそ、あなたの人生はあなたの為のものになるのです。そして現実の世界のあなたと、もう一つの物語の世界のあなたは、直接は関係しないにしろ、関連性を保ちながら平行線を辿り、共に成長していくことになります。もう一人のあなたは、今もそこで暮らし、あなたと一緒に成長しているのです。
しかし、もう一人の自分と共に成長しているという実感はないのではないかと思います。そもそも、もう一つのあなたは無意識の中に存在し、意識的なあなた、つまり現実の世界のあなたはその存在に気付くことはありません。それに、現代では神話や地域のおが伽話などは、共有される物語ではなくなりつつあります。科学による嘲笑により、過去の劣った物語として貶められ、以前ほどの影響力を失いつつあります。あなたは自分のことを、現実世界を構成する名も無き部品の一つとみなしているかも知れません。
もう一人の自分の為に
それでは、あなたの双子の片割れは、その居場所を失ってしまったのでしょうか。もう一人のあなたは、力を弱め消えてしまったのでしょうか。そして、その世界自体が消滅してしまったのでしょうか。もちろん、そんなことはありません。焚き火を囲み長老から聞かされた神話的世界は、形を変えて、僕たちの日常生活に今も重なるように存在しています。例えば、最近までならTVの世界です。TVの中には、人気の芸能人が居て、彼らはTVの世界の至る所に現れ、英雄的な活躍をしたり、ゴシップを撒き散らせたりします。そして、彼らのことを知らない者は居ません。彼らはビットコインと同じような集団によって共有される幻想という現実なのです。それは、それまの神話やお伽話と同じ構造と言えると思います。TVが廃れたとしても、インターネットの世界に同じ構造は残り続けることでしょう。やはりもう一つの現実として、神話的世界はそこに存在し続けているのです。
それでは、その世界の存在を認識して、あなたはどうするべきなのでしょうか。実際のところは、その存在にただ気付いてあげるだけで、状況は大きく改善されます。あなたの人生において意識することなく欠けていた半分を、それだけで手にすることができるのです。しかし、現実の世界のあなたが、もう一つの世界と、もう一つ世界のあなたに気付いた以上、あなたはもう一つの世界と、もう一人のあなたに対し、意識的に影響を与えることも可能になります。
では、どのようにすればもう一つの世界と、もう一人のあなたに影響を与えることができるのでしょうか。もちろん、影響を与えるとは、もう一つの世界と、もう一つの世界のあなたの成長を促すということです。それは、それ程難しいことではありません。もう一つの世界、つまり内的世界にエネルギーを注いであげるだけで良いのです。効果的なのは瞑想などなのでしょうが、日常生活をぼんやり過ごしてあげるだけでも十分です。日常生活をぼんやり過ごすというと明らかに無駄な行為に思えますが、そうだとも言い切れません。無駄にぼんやり過ごしている間は、日常に浪費されていた心的エネルギーを、もう一つの世界に注ぎ込んであげることができるのです。意識的に、内向的時間を生活の中に組み込んでいると見なしても良いのではないかとも思います。
かなり以前に何かの本で読んだのですが(確か河合隼雄氏の著書)、東北の一部地域では雪に覆われる冬の期間を、魂を育てる期間とみなしていたと記されていました。雪に閉ざされることによって、外部の世界にエネルギーが向かうことができず、内面の世界にエネルギーが注がれます。そのエネルギーは、もう一人の自分、そしてもう一つの世界の成長と拡大に使われることとなります。それは、一人の人間を完成させるために、必要な無駄なのです。
※
もしかすると、物心も付かないほど幼かった頃、ファンタジックな空想の世界で、あなたはもう一人のあなたと向き合っていたのかも知れません。ただ、大人になって離れ離れになって、いつの間にかその存在すら忘れ去ってしまった。どうか、あなたの人生を完成させる為に、もう一つの世界に暮らす、もう一人のあなたの存在に気付いてあげて下さい。あなたが、あなたらしい人生を生きる為に。


コメント